2012年5月15日火曜日

さよならサンセット

●5月10日(木)
 チャイナ・ミエヴィル『アンランダン 下 ディーバとさかさま銃の大逆襲』読了。上巻と同様にカバー見返しの登場人物表で肝心の主人公ザナとディーバの文章が入れ替わっちゃってるのが残念だが、お話の構造上勘違いしちゃっても仕方ないといえなくもない。というのはこの小説、王道の異世界往還ファンタジーのパターンを提示しながらあっさりそれを踏み外す、ある意味ルール違反を堂々とやっちゃってるから。最大のものは、ネタバレ以前の問題だから書いちゃうけど、予言の書に示された世界を救う選ばれし者が全く役に立たずあっさり戦線離脱しちゃったり、敵と戦うために必要な道具を手に入れるためのいくつかの手順が示されるものの、時間がないからという理由で間を飛ばしちゃったりするのです。で、このデタラメさ自体がおもしろさになってるのがまたよろしい。それでいてラストはちゃんとおさめるところにおさめて大団円。しかし『キング・ラット』『ペルディード・ストリート・ステーション』『都市と都市』『ジェイクをさがして』と、邦訳出てる分はひととおり読んだけど、この作者は作風がほんとにバラバラね(裏ロンドンというモチーフは共通)。どれもおもしろいからいいけど。
アンランダン 上 ザナと傘飛び男の大冒険 アンランダン 下 ディーバとさかさま銃の大逆襲
キング・ラット (BOOK PLUS) ペルディード・ストリート・ステーション (上)ペルディード・ストリート・ステーション (下)
都市と都市 (ハヤカワ文庫SF) ジェイクをさがして (ハヤカワ文庫SF)

●5月11日(金)
 DVDで『スーパー!』。民間人がコスチュームを身にまとってスーパーヒーローという名の迷惑な自警活動を行うってところで『キック・アス』とどう違うのかと思いながらも世評の高さに半ば期待もしながら鑑賞したら、『キック・アス』がなんだかんだで能天気な映画だったのに対し、こっちはもっとはるかにバカバカしく残酷でありながらも非常に切ない、より現実を真摯に見つめた作品でした。オープニングアニメーションのわくわく感とは裏腹な痛快とは言い難い展開に、それでも何かを成し遂げるクライマックス。さらにラストにかぶさる相棒ボルティーの台詞。コミックに描かれるような最高の瞬間のコマとコマの間の出来事。泣ける。といいつつ、監督のジェームズ・ガンが『悪魔の毒々モンスター』でおなじみのB級映画会社トロマ出身なので細部にやりすぎゴア描写がギャグ混じりでちりばめられていて、そんなところも照れ隠し的でいいですね。トロマ社長ロイド・カウフマンも出演者にクレジットされていて、どこに出てるのかわからなかったんだけど再度確認したらどうやら主人公がチンピラにぼこぼこにされている際に警察に電話かけてる人(横向きの上に携帯で顔が隠れていてわかりづらい)がその人っぽい。あとエレン・ペイジが『インセプション』のときの子どもっぽさとうってかわって非常にスケベな感じで大変よろしい。
スーパー! スペシャル・エディション [DVD] スーパー!(字幕版)  
キック・アス DVD 悪魔の毒々モンスター [DVD] インセプション [DVD]


●5月14日(月)
 田中真知『美しいをさがす旅にでよう』読了。前記事にも書いたようにアートを見ておもしろがりたい、けどどうおもしろがったらいいのかよくわからん、でも自分とは無縁として切り捨てたくはない、といったところから、おもしろがりかたのヒントはないかという観点で読んだのだが、「いちいち考えるんじゃなくて好きなように見たらいい」と言われても困っちゃってる自分にとってはかなり都合のいい読み取り方かもしれないけど、「『見る』には約束事が必要なのだ」(p203)とか「『見る』とは学習である。(中略)ありのままの世界を、見ることはできないのである」(p206)といったあたり、そうそうそうなんですよ真知さん、さすがわかってらっしゃる!と、わからない自分というもの自体が否定されるような現状に落ち込んじゃうこともある俺を大変励ましてくれるような本でした。ということで、わからないけどわかりたいならとにかくいろいろ観て、観ることを蓄積していくしかないな、と思うのだが、しかし蓄積するにしても、「物の見方」の「クセにとらわれるすぎると、そのクセではとらえきれない世界の豊かさを見失いかねない」(p211)とも書かれていて、それはそれで注意が必要だなーとも思った。まあまずは自分なりの見方を蓄積してからの問題だが。
美しいをさがす旅にでよう (地球のカタチ)

 夕方、大泉学園駅南口にあるレンタルビデオ店サンセットへ。私はここで1995年1月~1998年8月にかけてアルバイトをしていた(間に旅行等で半年ほどブランクあるけど)。就職したためバイトを辞めてからもしばしば足を運んではさまざまな映画等のビデオ・DVDをレンタルさせてもらっていたのだが、去る5月10日、長年のレンタル業にとうとう終止符を打ち閉店(当初の予定より一か月レンタル期間が延長)。二日間の整理期間の後、13日から在庫セールがスタート。そこで、以前から欲しい映画のビデオがあるがどこにも見つからないという友人を伴い、足を運んだ次第。
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 店内はこれまでのレンタル時とは比較にならない混雑具合であり、すでに相当量が売れているらしく棚に空きスペースも多い。現在のバイトくんに話を伺ったところ、セール初日は開店前に長い長い行列ができていたほどで、中にはひとりで600本も買っていった人もいたとか。なぜ一軒のレンタルビデオの閉店でこれほどに人が集まるのかといえば、とにかくこの店、在庫が尋常ではなかったのである。それも単に話題作を大量に仕入れて在庫数が豊富というのではなく、他のレンタルビデオでは置いていないような、あるいは昔はあったけど回転しないからという理由でワゴンセールに廻しちゃうような、誰が見るんだこんなの、というような商品がとにかく大量に置いてある店だったのである。店の方針としてダブっていないものは手放さないというものがあり、その結果が興味のない人から見たら実にどうでもいいマニアックなモノやマイナーなモノ、名作から駄作珍品まで、まあほんとどうかしてるわーという品揃え。当然のことながらそうしたモノの大半はDVD化されてないため、店内在庫の半分以上はVHS。早い話、何か観たいものがあったらまずこの店に行けばかなりの割合でレンタルできる、大変便利な店だったのです。
 ジャンルの幅も広く、大作映画やミニシアター系はもちろん、なつかしの邦画、劇場未公開ビデオスルー作品や往年の名画、往年のどうでもいい映画、もしかしたら8ミリで撮影されたようなレベルなのにパッケージに嘘八百書いてそこそこ名の知られる作品の続編や関連作のふりをしたゴミ映画といった映画全般や、映画テレビを問わない特撮作品群にアニメ作品群、洋の東西を問わない数々のテレビドラマ、Vシネマ、出所がよくわからない戦争ドキュメンタリー映像集、様々な名勝負を収めた格闘技、人気にのってリリースされたもはや誰も笑うことのできない消えたお笑い芸人のネタ集、そして何よりオーナーの一番の趣味である香港・中華系作品の充実ぶり。
 もちろん当然のことながら海賊版を入荷しているわけではなく正規リリースされた商品が並んでいるので、いずれも少なくとも数百本は出荷されているだろうからここにしかない!ということはあり得ないんだけど、これだけまとめて置いてある店となるとなかなかないのではなかろうか。で、しかし、その店がとうとう閉店。在庫セール。観たいのがあればレンタルしていつでも観られるわけではなくなってしまった。そりゃひとりで600本買い占める人も出るってもんである。私もほんとはそれなりの財力と置いておく場所があれば大量に買い占めておきたいのだが、現実はそうもいかず、今回は友人が欲しいモノを買うのを案内するにとどまってしまった。在庫セール自体は6月中までやる予定らしいので後日きちんと何を手元に残すべきか考えてから改めて伺いたいと思います。それまでに手元に残したいと思ってるモノが売れちゃってる可能性は充分にあるのだが。
 ということで、長い間ありがとうございました。以下、レンタル業務終了前に撮らせてもらった棚写真をテキトーにアップしておきます。
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2012年5月9日水曜日

ダ・ヴィンチ式豊胸手術

●5月5日(土)
 『デクスター』第6シーズン第2話。妹デボラの出世話を聞かされたデクスターが「いつか俺の尻尾をつかむ」と心中で呟く場面があったのだが、さらっと流されるけど、おそらく全シリーズ通してのラストってもうこれしかないよなーと思う。ということをツイッターに書いたらお友だちから義理の娘のアスターにばれるのもありそうとの意見。それもあるなあ。義理の娘と息子のアスターとコーディは前シーズンからレギュラーじゃなくなっちゃったけど。あとアスター役のクリスティーナ・ロビンソンがちょっと出ない間にどんどん成長しちゃってるようです。
デクスター シーズン1 コンプリートBOX [DVD] デクスター 幼き者への挽歌 (ヴィレッジブックス)

●5月6日(日)
 ライター仕事新案件の下準備。

 尾田栄一郎『ONE PIECE』66巻。話が一段落して展開して進むのでほっとする。バトルシーンが長くなるとめんどくさくなっちゃうのよね。バトルシーンも人気要素のひとつなんだろうけど。個人的には話をどんどん回収してクライマックスに近づいていただきたい。つまらんからさっさと終われという意味ではなく。つまんないと思ったら読んでないので。
ONE PIECE 66 (ジャンプコミックス)
 チャイナ・ミエヴィル『アンランダン 上 ザナと傘飛び男の大冒険』読了。前半の展開がいろいろ唐突すぎて登場人物もつかめないまま進むので乗りづらいが中盤からデタラメな想像力がおもしろくなってくる。でもまだ上巻なので判断保留。ところで初版ではカバー見返しの登場人物紹介でザナとディーバが入れ替わっちゃってると思います。間違ってると思います。下巻も同様。
アンランダン 上 ザナと傘飛び男の大冒険 アンランダン 下 ディーバとさかさま銃の大逆襲

●5月7日(月)
 ライター仕事の下準備つづき。本格化するかどうかは未定。

●5月8日(火)
 Bunkamura ザ・ミュージアムで『レオナルド・ダ・ヴィンチ 美の理想』。あまりにも美術と縁遠く、しかしそれを楽しんでいる方々は割と身近に多いこともあり、じゃあこれからときどき何か行くようにしてみようか、と思い立ち、しかし自分の好みもわからず何を観たらいいのかわからず、なので今開催中のものをテキトーに調べて知った名前の芸術家のモノで、ということでこれを選んだ次第。といってもレオナルド・ダ・ヴィンチ個人ではなくて(現存する作品も15点程度しかないらしいし)、彼の系譜に連なる作品群を集めたモノでした。で、本来ならせっかく足を運んだ以上は何らかの感想を書いておきたいのだが、そもそも自分の中に美術鑑賞の土壌が皆無なので、絵を観て何かを思うという回路がなく、実に簡単なはずの「荘厳さを感じる」とか「美しい」とかいったような感想もいまいち自然に自分の中からわいてこず、だからといってやっぱり自分には美術鑑賞は向いていないんだなーと切り捨てるのは悔しいので、こりゃもうあれだ、とりあえずやっぱり数をこなしていきましょう、と思いました。
 実際のところ、こういう初心者以前の話を友人らにすると、みなさん口をそろえて「好きなように観て好きなように感じたらいい、そんなめんどくさいことを考えなくていい」なんてことを言われるのだが、「好きなように観ること」「好きなように感じること」がそもそもできないんだから仕方ない。というような俺のこのうまく伝わらない気持ちをバックアップしてくれるような文章がタイミングよく『BRUTUS』最新号に掲載されていて少し救われた気分。書いているのは画家の山口晃、書いているのは次のようなこと。

「絵なんて好きに見ればいいのサ」などと言われても、観点の無い人間は困ってしまうのです。好きも何も、どこを見たらいいのか解らないですから「ああ、色がきれいですね」とか「何かちょっと怖いなあ」などと、海馬が返事をした様なことを言うハメになるのです。(中略)ですから「好きに見ればいい」と云うのは大分投げやりな物言いで、観点を見出せる様なアプローチをつけてあげる方が親切なのです。(『BRUTUS』2012年5月1日号95ページ)


 まあアプローチしてくれるほど親切になってくれとは言わないが、このレベル、というかもっと下のレベルで見方がわからない、というのが今の俺の現状なわけです。俺「見方がわからない」→友「好きなように見ればいい」→俺「好きなように見るというのがわからない」→「そんなに難しく考える必要はない」、といったような無限ループに陥るのはもうやめたいところなので、まあなんだ、とりあえず何かわからないなりに観るようにはしてみたいと思います。でも感想を聞くのはまだやめてください。その感想の言葉が出てこないんだから。
 という前提のもと、ひとつだけ感想を書いておくと、「裸のモナ・リザ」群を中心とした女性裸体絵画に描かれるおっぱいが、どうしてどれもこれもああも豊胸手術を施したみたいな形なんでしょうか。それも現代の豊胸手術的な形。豊胸手術をした女性は今後「ダ・ヴィンチおっぱい」とか開き直っちゃえばいいかと思う。主にアダルトビデオあたりで。
BRUTUS (ブルータス) 2012年 5/1号 [雑誌]
 外に出て時計を見ると17時。このまま帰ってもいいんだけどちょっと調べたら少し興味のある映画がちょうどいい時間帯。ということでシネマヴェーラ渋谷へ向かい「妄執、異形の人々 海外篇」。本日は『ハネムーン・キラーズ』『エル・トポ』2本立て。
 まず『ハネムーン・キラーズ』。完成度は結構あらっぽく、作り手の意図とはおそらく裏腹に登場人物がバカばっかりなのだが(実在の事件とは思えないレベル)、しかしデブでブスなヒロインの嫉妬心むき出しな痛々しい気持ちをストレートに描いたことで、なんだか妙に愛おしい映画になっているんじゃなかろうか。制作年度(1970年)から考えて『俺たちに明日はない』の二番煎じ企画と思えなくもないが。
ハネムーン・キラーズ [DVD] 
 続いて『エル・トポ』。これは随分前、おそらく10年ぐらい前にレンタルビデオで一度観ているのだが、こんなにもインパクト大な映画なのに驚くほど覚えてないものですね。はっきり覚えてたのはうさぎ大虐殺の場面とちびっ子ロシアンルーレットの場面ぐらい。うさぎ大虐殺はおそらく初見時に我が家でうさぎを飼っていたため、映画のためとはいえなんて残酷なことをするんだ!とショックを受けたからと思われる。今回観直して、やっぱりあれ、ほんとにうさぎ殺しまくってて超残酷だよなーとは思うが、もう我が家にうさぎがいないためなのか、前に一度観てるからなのか、それなりに冷静に受け止めることは可能ではありました。イヤなことはイヤだけどな。ちびっ子ロシアンルーレットはホドロフスキーの別の映画だったかな?というぐらいに曖昧な記憶だった。別のホドロフスキー映画を観てるかどうかも曖昧だが。
 で、なんだ、細部はほとんど覚えていないものの、漠然としたイメージは頭のどこかに残っていたせいか、新たなショックを受ける、ということはなかった。ただよくまあこうも次から次へと狂ったイメージを連続させられるよなあ、と感心。しかしながら少々狙いすぎなんじゃないのかな?と思わないでもなく、それは例えば悪趣味な部分が再評価されてからの石井輝男作品が悪趣味演出を自覚的に再生産してるように見えちゃって個人的には面白くなかった『ねじ式』『地獄』あたりに近いというか。天然ならいいけど天然を装うとわざとらしくなるというか。いやまあ『エル・トポ』はそうしたところを凌駕するどうかしちゃってる映画ではあるとは思うけどな。
 ところで今回の上映環境、「40周年記念デジタルリマスター版」なのはいいんだけど、プロジェクター上映(素材はブルーレイ)だったためにせっかくのリマスターながらスクリーンに映写すると細部がやっぱり微妙にぼやける気がしてなりませんでした。あと、前にビデオで観た時は確かばっちり写ってた少年のちんこに今回はぼかしが入ってて、かえって変態性が高まっちゃってる気がしました。
エル・トポ HDリマスター版 [DVD] ねじ式 [DVD] 地獄 [DVD]